国内最大の日雇い労働者の街として知られる大阪市西成区のあいりん地区で、地元の子供とアーティストが壁画を描くプロジェクト「西成ウオールアートニッポン(西成WAN)」が進められている。落書きがはびこる壁をカラフルに彩り、地区のイメージアップや治安の改善につなげる狙いだ。第一弾として、今春開校する小中一貫校の前に鮮やかな壁画を制作。参加者は「壁画を観光資源に、西成に訪れる人を増やしたい」と夢を描く。

治安や環境が課題

 「そこは明るい色がええんちゃう」「手形つけてもいい?」

 今月17日、今年4月に開校する「いまみや小中一貫校」(同区花園北)前の南海電鉄高架下。地元の子供ら約80人が、はしゃぎながら色とりどりのスプレーを高さ2メートル、長さ50メートルの壁に吹きつけていくと、「ここから いまから」という文字をモチーフにした鮮やかな壁画が浮かび上がった。

 日雇い労働者の街として発展した同地区だが、近年は雇用が減少し、労働者や住民の高齢化が進行。路上生活者が増えたほか、薬物の密売やごみの不法投棄などの温床になっていると指摘されている。市は子育て世帯を呼び込み、街全体の活性化を目指す「西成特区構想」を提唱し、今年度から大阪府や府警と合同で環境改善策を展開している。

落書きだらけの壁

 地区の現状を地域の力でも変えていこうと、地元住民や福祉、教育団体の関係者らが協議。落書きだらけの壁に着目し、「壁をカラフルにしてあいりんのイメージを変えよう」と西成WANを計画し、実行委員会を立ち上げた。

 壁にメッセージ性のある絵を描く取り組みは、米ニューヨークで地下鉄などに描かれた落書き(グラフィティ)が発祥とされ、もともとは持ち主や管理者の許可を得ずに行われる非合法な行為だった。だが、近年は芸術として認知され、国内でもまちおこしに活用する例も出てきている。

人の目が集まれば

 実行委は、まず子供たちが集まる小中一貫校の前で、「ここから西成は変わっていく」というメッセージを発信。「人の目が集まれば、不法投棄などもしにくい」という狙いもあり、今後も所有者の協力を得られる場所を探し、壁画を広めていく考えだ。

 実行委員長を務める阪南大国際観光学部の松村嘉久教授は「西成が変わるきっかけが何かほしいと、地域の人たちは前から思っていた。壁画を見に多くの人が訪れるようになれば、地区の活性化につながる」と期待する。

 プロジェクトには、総合プロデューサーとして西成出身のヒップホップ歌手、SHINGO☆西成さんも参加。「殺風景より彩りのある街のほうがいい。西成が変わる始まりにしたい」と意気込んでいた。

産経新聞